少数意見

最新 追記

2002-02-06 恩情

_ 小泉批判の嵐の中で考えたのだが、あそこで田中真紀子を切ったのは小泉の恩情ではないか。

_ 真紀子が大臣の器でないことは彼女のファンですら認めるところで、これまでも失脚に値するミスを繰り返してきた。その彼女がはじめて賞賛するに足る仕事をした。しかし、問題をあれ以上追及することは真紀子には無理だと小泉は思った。

_ 更迭の直前、紛争の焦点は「鈴木宗男」の名前が会話の中で出たか否かという「言った言わない論争」に移っていた。ここでは真紀子は劣勢で、追及されれば彼女のウソが判明したと思う。そこで小泉は考えた。真紀子が嘘つきの汚名を着せられて強制退場させられるより、悲劇のヒロインとして消えていく花道を作ってあげよう。そのためには、小泉が悪者にならなければならない。

_ 結果は小泉の思ったとおりになった。真紀子はヒロインになり、自分は悪者になった。しかし、世論の過剰な反応は小泉にとっても予想外だった。だれも小泉の恩情に気づいてくれない。

_ 事実はこれほど単純ではないと思うが、恩情が小泉の判断を狂わせた可能性はある。彼が非情な人だったら、あのような自分にとって最悪のタイミングを選ぶわけはない。小泉はヒトラーやスターリンにはなれなかった。それでよかったのだろう。


2002-02-08 オーシャンズ11

_ ネタバレあり。

_ 「トラフィック」にしろ、この作品にしろソダーバーグ監督は複雑な状況を整理するのがうまい。いい弁護士になれるだろう。傑作というほどでもないが、見て損はしない。

_ ひとつよく分からなかったのが、なぜ軽業師の中国人が中に隠れているカートをあのように簡単に金庫室に入れられたのか。あれは現金を運ぶもので、カジノのフロアーで運んでいたのはオーシャンの手下だ。よほど信用がなければそのような役割が回ってこないんじゃないか?

_ オーシャンはカジノのオーナーに、奪った現金の半分を運び出させれば後の半分は返すという取引をもちかける。それにオーナーは乗ったため全額取られるはめになった。しかし、カジノは普通盗難保険に入っているんじゃあないか?全部取られても保険で取り戻せばいいように思うが。こんなことを考えていると映画が楽しくなくなる。

_ ジュリア・ロバーツは中途半端な役だった。なぜカジノのオーナーを捨ててオーシャンに戻るのか、説得力がない。そもそもあの時間内で女心を描ききるのは無理だ。彼女の役はないほうがよかった。オールスターの映画は必ずみんなに見せ場を作らなければならないので、完成度は低くなる。


2002-02-12 「わが人生の時の人々」(石原慎太郎著)

_ 私は石原慎太郎の本をほとんど読んでおり、石原ファンをもって自認していた。しかし、この本を読んでその気持がさめていくのを感じた。石原の語り口は特に変わったわけではないが、突然老醜が気になった。要するにこの本は、自分がいかにすごいことをやって、大物に気に入られ、強敵と戦ったかという自慢話に尽きる。しかし、傲慢不遜は石原の代名詞のようなもので、今までよかったものがなぜ突然許せなくなったのか。

_ 参議院に300万票をとって当選したとき新聞に、自分ほど首相にふさわしい人間はいないと書いたが、あれは痛快だった。そのとき彼はまだ36才だった。年功序列の日本社会において若手が虚勢を張って老人支配に挑戦する姿はさわやかだ。しかし、それから40年近くの歳月が流れ、権力のひとつの要にいる石原が同じ言葉をはいても印象は違ってくる。さらに同じ自慢にしても30代のそれと60代では意味が違ってくるように思える。30代の自慢は視線が未来に向かっているので自慢が本来もつ醜さが隠される。60代の自慢はこれと異なり、自分がため込んだ財宝を見せびらかすようないやらしさがある。語っている人間が美しさを失っているからかもしれない。

_ 昔、黒澤明監督の自慢話を聞きながら、なぜ世界が天才、巨匠と認める人が取り巻き相手に同じ自慢話を繰り返し、聞き飽きたはずの賞賛を確認しなければならないのか不思議だった。石原も同じような状況にあるのではないか。

_ 三島由起夫は「豊穣の海」の第4巻「天人五衰」で老醜をテーマにした。石原は「わが人生の時の人々」の中で三島の晩年の作品における才能の枯渇に言及していたが、反対に三島は現在の石原がはまっている罠を彼の最後の作品で予言していたのではないか。


2002-02-18 千と千尋

_ ベルリン国際映画祭金熊賞。期待はしていたが、あまりにも日本的な作品なので難しいと思っていた。審査員の目はたいしたものだ。

_ この作品は国際的な理解を得ることはまったく考えず、宮崎駿が自分の内的世界をストレートに表現したもので、外国の審査員に何が評価されたのか興味がある。

_ 「千と千尋」はキネマ旬報の2001年度日本映画ベスト・テンで3位に入っている。58人の選考委員が1位を10点、10位を1点として採点する。「GO」が336点、「ハッシュ!」が265点で「千と千尋」が242点。たしかに「GO」は秀作だが「千と千尋」と比べれば前頭と横綱の違いがある。「千と千尋」に10点を入れた者が7人、10位までに入れなかった者が25人。実に半数近くが点を入れていない。なにを考えているんだろう。趣味が合わないことはあっても昨年公開された日本映画の中で10位に入らないということは考えられない。

_ ちなみに、「羅生門」は1950年の5位、「7人の侍」は1954年の3位。これは今から考えたらお笑いでしょう。予言するが21世紀の世界の映画のベスト・テンで「千と千尋」は上位に入る。この結果は2101年に発表されます。


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