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2004-09-17 佐世保小6事件最終審判決定

_ 昔、三島事件の後、三島由紀夫はパラノイアだったと断じて失笑を買った精神科医がいた。一般的に精神科医は劣等な者を診断することは出来ても優秀な者を診断するのは下手だ。

_ 80日間に及ぶ精神鑑定の結果を踏まえた決定は、被害者の父親も言うように加害者である女児の心の奥底に触れたものではなく下手な作文以上のものではない。この決定は女児の劣等な部分をいくつも指摘するが、彼女の書いたものをいくつか読んだ者にとっては何を根拠にそのような結論に至ったのか不可解である。「自分の中にあるあいまいなものを分析し統合して言語化するという一連の作業が苦手だ」というが、女児のHPの一部でも読めば優れた感性と表現力を否定し得ないはずだ。それは11才という年齢とは関係なく知的な大人のレベルに達している。

_ 笑ってしまったのは、女児は「怒りを抑圧・回避するか、相手を攻撃して怒りを発散するかという両極端な対処行動しか持ち得なかった」というところで、裁判官は何をすれば良かったといいたいのだろう。考えうるその他の対処方法としては、関係のない第三者に怒りをぶつけるか、他人に愚痴をこぼすか、というところか。耐えられる怒りには一人で耐え、許し難い怒りについては自分の責任で攻撃するのは映画の中の高倉健の生き方で、少なくとも男としては賞賛される行動のはずだった。

_ 決定の中の的外れな性格的欠点の指摘が全て事実だったとしても、それは何れもあの異常な犯行には結びつかず謎は深まるばかりだ。

_ 1箇所興味をひいたのは、女児が「殺害行為に着手した直後解離状態に陥ったことで、自分の行為に現実感がなく、実行行為の大半の記憶が欠損していること」という部分である。解離性障害(Dissociative Disorder) とは自らが体験している感覚、自らの身体を自分で支配している感覚等の一部が統合を失い感じられなくなることである。その一つは解離性同一性障害でいわゆる多重人格である。ひょっとしたら解離状態は殺害行為の前から存在し、女児は別な人格に支配されていたのではないか。そうでも考えないと女児の人格と犯行が結びつかない。

_ 今回の決定は重大な事実を隠している可能性がある。


2004-09-30 誰も知らない

_ 退屈な映画だった。

_ 観客は母親に置き去りにされた4人の子供の話だと知って来るのだろうから、映画は観客が予想している以上の内容を提供しなければならない。けなげに、また無邪気に生きていく子供たちを描くだけで皆が感動するわけではない。子供たちはとても自然で良かったが、それは公園で遊ぶ子供を見ていることとあまり違いはなく、金を取って映画を見せる以上それでは足りない。とにかく2時間21分の上映時間は長すぎる。あの内容だったら1時間あれば十分でその方が充実したものになっていたろう。途中でいらいらしてきて、誰か早く子供たちを保護して映画を終わらせてくれという気持ちになった。一つ一つのシーンが長すぎる。長いシーンがあってもいいが、メリハリがないので眠くなる。

_ ストーリーもきれいごとで気に入らない。元の実話はもっと悲惨なものだったようだ。それをこの映画はメルヘンのように描いているが、それも成功していない。長男明(カンヌで主演男優賞を取った柳楽優弥)を助けようとするいじめられっ子の女子中学生が援助交際(それもカラオケに付き合うだけという欺瞞的なもの)で手に入れた金を明は拒否する。でも一番下の妹ゆきが死んだとき、明はゆきに飛行機を見せてあげたいのであの金を「貸してくれ」と言う。なにか中途半端。

_ 子供たちは電気、ガス、水道を止められても公園で水を調達し、トイレを借り、コンビニの店員から賞味期限切れの食料をもらう。大家はアパートを追い出そうとはしない。「シティ・オブ・ゴッド」(2002年ブラジル)ではスラムを舞台に小学生が銃を持ち殺し合いをしていた。これは極端だとしても、「誰も知らない」のような状況におかれた子供は日本以外の国だったら犯罪で生計を立てていくだろう。この映画は日本という不思議な富める国でしかありえない出来事を描いている。子供たちは最後まで善良でカワイソウな存在であり、善と悪との葛藤も経験せず、観客が感情移入しやすい、捨てられたペットのように扱われている。もっとも、実話はそんなきれいごとではなかった。やはり無理がある。


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