_ 東電OL事件とオウム事件を下敷きに慶応女子高校らしき高校を舞台にした桐野夏生の小説。3分の1ほどは真面目に読んだが、全く人間が描けていないと思いあとは読み飛ばした。
_ 作品評をする気もないが、東電OLを利用していることについては文句を言いたい。この小説では当該OLは佐藤和恵という名前を与えられており、おぞましい存在として描かれている。著者は故人の人権をなんと考えているのだろう。
_ 「宴のあと」事件で東京地裁は「私生活上の事実のみでなく事実らしく受け取られるおそれのあることがら」を公開することもプライバシーの侵害になると判じている。作品の芸術性が当然に違法性を阻却するわけではない。「宴のあと」事件の有田八郎は元外務大臣で東京都知事選の候補でもあったので公的な人物として私生活が公表されることがやむをえないともいえた。これに反し東電OLは私人であり犯罪の被害者だった。三島由起夫は有田を悪意をもって描いたのではなく、むしろ読者は有田に好感を持つようになったはずだ。それでも裁判所は三島に損害賠償を命じた。
_ 桐野夏生は、この作品を当該OLの母親がどのような気持で読むと考えたのか、考えなかったのか。作家というのは因果な商売だ。